プロローグ:流行りの診断、ただの遊びで終わらせるにはもったいない
あの4文字が、僕らの日常を変えた?
最近、街のあちこちで「INFP(仲介者)だけどさ」「ESFJ(領事官)と相性悪いんだよね」なんて会話が聞こえてくる。まるで、昔の血液型診断がアップデートされたみたいに、あの4文字のアルファベットが僕らのコミュニケーションに深く食い込んでいる。初めは「また流行りモノか」なんて斜に構えていた僕も、気づけば自分のタイプを調べては、友人と「やっぱりね!」と盛り上がっている。
ただ、これ、単なるエンタメで終わらせるのは、ちょっともったいない気がしないか? 自分のタイプを知った瞬間、今までどこかモヤモヤしていた人間関係のパズルが、カチッと音を立ててはまっていくような感覚。あれって、一体何なんだろう。なぜ僕らは、こんなにもあの診断に惹かれ、そしてなぜ、たった4文字のタイプ分けが、僕らの世界をここまで変えてしまうんだろうか。その深層心理を、今回はちょっと真面目に掘り下げてみたい。
| 指標 | アルファベット | 意味 |
| エネルギーの方向 | E | 外向型 (Extraversion) |
| I | 内向型 (Introversion) | |
| ものの見方 | S | 感覚型 (Sensing) |
| N | 直観型 (Intuition) | |
| 判断のしかた | T | 思考型 (Thinking) |
| F | 感情型 (Feeling) | |
| 外界への接し方 | J | 判断型 (Judging) |
| P | 知覚型 (Perceiving) |
| グループ | タイプ | 愛称 |
| 分析家 | INTJ | 建築家 |
| INTP | 論理学者 | |
| ENTJ | 指揮官 | |
| ENTP | 討論者 | |
| 外交官 | INFJ | 提唱者 |
| INFP | 仲介者 | |
| ENFJ | 主人公 | |
| ENFP | 運動家 | |
| 番人 | ISTJ | 管理者 |
| ISFJ | 擁護者 | |
| ESTJ | 幹部 | |
| ESFJ | 領事官 | |
| 探検家 | ISTP | 巨匠 |
| ISFP | 冒険家 | |
| ESTP | 起業家 | |
| ESFP | エンターテイナー |
タイプが教えてくれた、僕らの「取扱説明書」
あの4文字が、友人の隠れた本音を暴いた日
僕らが「INFP(仲介者)だけど、〇〇なんだよね」なんて話すとき、そこには単なる自己紹介以上の意味がある。まるで、今まで見えなかった友人の「取扱説明書」を初めて手に入れたような感覚。先日、佐藤さん(20代・INTP:建築家)という人が、こんな話をしてくれた。
「僕、ずっと友達のA子(ESFJ: 領事官)との関係にモヤモヤしてたんです。A子って、とにかくみんなでワイワイするのが好きで、何かイベントがあると必ず企画の中心にいるタイプ。僕は、じっくり一人で考えたり、少人数で深い話をするのが好きだから、正直、A子のその『みんなで!』っていうノリについていけないことが多かったんです。でも、誘いを断ると、A子はすごく寂しそうな顔をするし、僕も『また誘いを断っちゃったな』って罪悪感を感じてて。お互いに気を遣ってるのに、なんか噛み合ってないなって」
佐藤さんは、たまたまSNSで流れてきたMBTI診断をやってみて、自分がINTP(論理学者)、A子がESFJ(領事官)だと知ったとき、雷に打たれたような衝撃を受けたらしい。
「INTPは内向的で思考型、ESFJは外向的で感情型。もう、真逆じゃないですか(笑)。ESFJは人の感情に敏感で、みんなとの調和を大切にする。だから、僕が誘いを断ることで『みんなと楽しむ機会を逃しているんじゃないか』とか『自分を嫌っているんじゃないか』って心配になってたんだって。逆に僕は、A子が『なんで一人でいるのが好きって理解してくれないんだろう』って思ってた。でも、お互いのタイプを知ってから、A子は僕に『一人でゆっくりしたい時は無理しないでね!』って言ってくれるようになったし、僕もA子の『みんなで分かち合いたい』っていう気持ちを尊重して、たまにはイベントに参加してみるようになりました。そしたら、お互いへの信頼感がグッと深まった気がするんです。A子も僕も、相手を思いやる気持ちは変わらなかったのに、その表現方法が違っただけなんだなって」
この話を聞いたとき、僕もハッとした。僕らはきっと、みんなそれぞれに違うOSを搭載しているのに、同じアプリをインストールしようとしたり、同じ操作を強要したりしがちだ。でも、そのOSの違いを理解すれば、互いの「バグ」だと思っていたものが、実は「仕様」だったと気づける。
職場のギスギスを溶かした「タイプ理解」の魔法
人間関係の悩みは、プライベートだけじゃない。職場だって、毎日顔を合わせるからこそ、ちょっとしたボタンの掛け違いが大きなストレスになる。都内でIT企業の営業として働く田中さん(20代・ENFJ:主人公)は、以前、上司との関係に頭を抱えていたそうだ。
「僕、ENFJなので、チームの士気を高めたり、みんなで目標に向かって頑張るのが好きなんです。だから、部下にも積極的に声かけて、悩みがないかとか、困ってることないかとか、聞くようにしてたんです。でも、僕の上司(ISTJ: 管理者)は真逆で。感情を表に出さないし、常にロジックとデータで話すタイプ。僕が『チームの雰囲気、もっと良くしたいですね!』とか言うと、『具体的にどう改善するのか、データで示せ』って返ってくる。最初は『なんで僕の気持ちを汲んでくれないんだろう』って、すごく落ち込んだり、時にはイライラしたりもしました」
田中さんは、上司が自分を評価していないんじゃないか、とまで思い詰めていたという。しかし、ある日、社内の研修でMBTI診断の簡易版を体験する機会があった。そこで上司がISTJ(管理者)、自分がENFJ(主人公)だと知り、それまでのモヤモヤが一気に晴れたと話してくれた。
「ISTJ(管理者)って、伝統と秩序を重んじて、現実的で責任感が強い。感情よりも事実を重視するタイプなんです。だから、上司は僕の『気持ち』じゃなくて、『具体的な成果』を求めてたんだって理解できた。僕が『チームの雰囲気』って抽象的な話をするから、上司は『何を言ってるんだ?』ってなってたんだなって。それからは、上司に報告する時は、まずデータや実績から話すように変えました。そうしたら、上司の反応が全然違うんです。『なるほど、それなら進めてみよう』って、前向きな返事が返ってくるようになった。僕も、上司が感情がないわけじゃなくて、ただ表現方法が違うだけなんだって分かったから、以前ほどストレスを感じなくなりました。むしろ、上司の論理的な思考から学ぶことも増えて、仕事がすごくやりやすくなったんですよ」
このエピソードは、まさに「相手のレンズを通して世界を見る」ことの重要性を教えてくれる。僕らはつい、自分の「当たり前」を相手にも求めてしまいがちだ。でも、その「当たり前」が違うと知るだけで、こんなにも景色が変わるなんて。
恋愛のモヤモヤも、これでスッキリ?
そして、最も繊細で複雑な人間関係といえば、やっぱり恋愛だろう。お互いに特別な感情があるからこそ、ちょっとしたすれ違いが大きな溝になりかねない。カフェで隣の席に座っていた鈴木さん(20代・ISFP: 冒険家)が、友人に話していた内容が、まさにその典型だった。
「私、彼氏(ENTJ)と付き合い始めた頃、本当に価値観が合わないって悩んでたんだよね。私はその場の感情とか直感を大事にするタイプで、例えば『今日の気分で、どこか遠くまでドライブ行っちゃおっか!』みたいな衝動的な行動が好き。でも彼は、常に計画的で、目標達成のために逆算して行動するタイプだから、『ドライブ?何の目的で?ガソリン代と時間に見合う価値があるのか?』って、いちいち論理的に返してくるの。もう、ロマンもへったくれもないじゃん!って思って、何度も喧嘩になった」
鈴木さんは、彼氏の「効率主義」が、自分の「自由奔放さ」を否定されているように感じていたそうだ。しかし、彼氏と一緒にMBTI診断をやってみた結果、彼がENTJ(指揮官)だと知って、すべてが腑に落ちたという。
「ENTJって、目標達成のために戦略を立てて、人を巻き込んでいくリーダータイプなんだって。だから、彼の『何の目的で?』っていうのは、私を否定してるんじゃなくて、彼自身の思考のクセなんだって分かったの。彼からすれば、目的もなく行動することが理解できなかっただけなんだって。逆に私はISFP(冒険家)で、自分の内面や感情を大切にするタイプ。彼に『なんでそんなに行き当たりばったりなんだ』って言われると、傷ついてたけど、それも彼の思考のクセだったんだなって。それからは、私が衝動的な提案をするときも、『ただ気分転換したいだけなんだ』ってちゃんと伝えるようにしたし、彼も『それなら、この時間なら行けるよ』って、柔軟に対応してくれるようになった。お互いの『当たり前』が違うことを知って、無理に合わせようとするんじゃなくて、お互いの個性を尊重できるようになって、むしろ前よりずっと仲良くなれたんだ」
恋愛において、相手を変えようとするのは最もやってはいけないことの一つだ。でも、相手の「仕様」を理解すれば、変えようとしなくても、自然と歩み寄れるようになる。MBTI診断は、そんな「歩み寄り」のきっかけをくれる、現代の魔法なのかもしれない。
自己理解が、僕らの世界を広げる鍵になる
「私」を知ることで、「あなた」も理解できる
佐藤さん、田中さん、鈴木さん、彼らのエピソードを聞いて、僕が強く感じたのは、あの4文字の診断が、単なる性格分類に留まらないということだ。それは、僕らが無意識のうちに抱えていた「なんであの人はああなんだろう?」という疑問に、一筋の光を差し込むようなツールなんだ。
自分のタイプを知ることは、自分自身の「取扱説明書」を手に入れることにも似ている。自分がどんな時にストレスを感じやすいのか、どんな状況でモチベーションが上がるのか、どんな考え方をする傾向があるのか。それがわかれば、無理に自分を偽ったり、合わない環境に飛び込んで疲弊したりすることが減る。自分の強みを活かせる場所を選んだり、弱みを補うための工夫をしたり、自分自身をより良い状態に導くためのヒントが見つかるはずだ。
そして、自分のことを深く理解できるようになると、不思議と他人のことも理解できるようになる。相手のタイプを知れば、「ああ、この人はこういう考え方をするから、こんな行動を取るんだな」と、感情的になる前に一歩引いて、客観的に相手を捉えられるようになる。相手の行動の背景にある「タイプ」という「仕様」が見えてくれば、これまで「理解できない」と切り捨てていた部分も、「自分とは違うけれど、そういうものなんだ」と受け入れられるようになる。
これは、決して「タイプに縛られる」ということじゃない。むしろ、タイプを理解することで、僕らは「自分らしさ」という個性を、より自由に、より豊かに表現できるようになるんだ。そして、同時に、他者の「らしさ」も尊重し、多様な価値観が共存する世界を築くための、小さな一歩になる。
「タイプ」は、対話のきっかけに過ぎない
もちろん、MBTI診断がすべてではない。人間は複雑で多面的だから、たった4文字でそのすべてを説明できるわけがない。この診断は、あくまで「傾向」を示すものだ。しかし、その「傾向」を知ることが、僕らの人間関係において、驚くほど大きな変化をもたらすことがある。
僕らがこの診断に惹かれるのは、きっと、誰もが心のどこかで「自分は何者なのか?」という問いを抱えているからだろう。そして、「自分を知りたい」という欲求の裏には、「他者とどう関わっていけばいいのか?」という、もっと大きな問いが隠されている。
あの4文字は、その問いに対する「答え」ではなく、「対話のきっかけ」を与えてくれる。自分のタイプを知り、友人のタイプを知り、恋人のタイプを知る。そして、「あなたはどう思う?」「私はこう感じるんだけど」と、お互いの内面について語り合うことで、僕らはもっと深く、もっと豊かに繋がれるようになる。
今、僕らの周りには、SNSのいいねやフォロワー数といった、表面的な繋がりがあふれている。そんな時代だからこそ、このMBTI診断が提供してくれる「自己理解」と「他者理解」のツールは、僕らの人間関係をより本質的で、意味のあるものへとアップデートしてくれるのかもしれない。
エピローグ:僕らの「らしさ」を、もっと自由に
結局のところ、僕らが求めているのは、自分らしくいられる場所と、自分を理解してくれる誰かだ。MBTI診断は、その両方を見つけるための羅針盤になり得る。自分という唯一無二の存在を深く知ることで、僕らはもっと自信を持って、自分の人生を歩めるようになる。そして、他者の「らしさ」を理解し、受け入れることで、僕らの世界は、もっとカラフルで、もっと優しい場所になるだろう。
さあ、あなたも一度、自分の「取扱説明書」を覗いてみないか? きっと、新しい発見と、新しい繋がりが、そこにはあるはずだ。

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