はじめに:貯金ゼロ、SNSでキラキラ?
SNSを開けば、誰かのキラキラした日常が流れ込んでくる。最新ガジェット、限定スニーカー、国内外への弾丸旅行。そういうのを見て、「いいなぁ」と思う傍らで、ふと自分の銀行口座の数字を見て、冷静になる瞬間、きっとあるんじゃないか。
「貯金ゼロでも平気」なんて声も聞こえる。でも、それは本心から言えることだろうか。未来への漠然とした不安、周りの華やかな投稿との比較。私たちの金銭感覚は、今、大きく揺さぶられているのかもしれない。
SNS格差とは?
この「揺さぶり」の背景には、SNSが深く関係している。ここで言うSNS格差とは、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で目にする他者の華やかな生活や消費行動と、自身の現実との間に生じる、心理的・経済的なギャップのこと。多くの情報が溢れる中で、無意識のうちに自分の価値観や金銭感覚が影響を受け、時にはそれが不安や焦燥感へと繋がる現象を指す。憧れが、いつしかプレッシャーに変わってしまう現象、と言い換えてもいい。
何が私たちを不安にさせるのか?
SNS格差という言葉を耳にしたとき、多くの人が頭に浮かべるのは、他人と自分を比較して、劣等感や焦燥感を抱く姿だろう。しかし、その感情の根底には、もっと深く、言葉にしがたい漠然とした不安が横たわっている。ただ「お金がない」という事実だけでは片付けられない、複雑な心境。それが、今の私たちの日常を彩る影の一つになっているのかもしれない。
見えない「普通」との戦い
たとえば、こんなシチュエーションを想像してみてほしい。
あなたは、働き始めて数年が経ち、ようやく仕事にも慣れてきた頃だ。地方から出てきて、憧れの都市で一人暮らしを始めた。給料は、頑張り次第で少しずつ上がっていくものの、家賃や食費、光熱費、通信費など、毎月固定でかかる出費を引くと、手元に残る金額は思ったより少ない。それでも、同期や学生時代の友人たちと過ごす時間、週末にちょっと贅沢なカフェで過ごすひとときは、明日への活力をくれる。
ある日、あなたはSNSのタイムラインを眺めていた。親しい友人のひとりが、南国のビーチで撮った、完璧に加工された写真を投稿していた。「最高の休暇!また来たいな」というキャプションとともに、色鮮やかなカクテルグラスが写っている。数日前には、別の友人が、ブランドの新作バッグを手に、お気に入りのレストランで食事をしている写真をアップしていた。「ご褒美って大事だよね」と添えられて。
それらの投稿を見るたび、胸の奥で小さな波が立つ。別に嫉妬しているわけじゃない。ただ、「すごいな」と思う。同時に、「みんな、こんなに自由に、お金を使えているんだ」という、微かな驚きと、自分との差を感じてしまう。自分の口座の残高は、来月のクレジットカードの引き落としを考えると、決して余裕があるとは言えない。貯金は、正直、雀の涙ほどしかない。いや、正確には、ほとんどゼロに近い。
週末、職場の先輩から、少し値の張るレストランでの食事に誘われた。「いつも頑張ってるから、たまには贅沢しよう!」と明るいメッセージ。行きたい気持ちはある。普段行かないようなお店で、美味しいものを食べたい。でも、その一食分で、どれだけのものが買えるだろう、どれだけ生活費の足しになるだろう、という計算が、無意識のうちに頭を駆け巡る。もし今、急な出費があったら、どうする?もし病気になったら?そんな漠然とした不安が、誘いへの返事を躊躇させる。
「別に、貯金がなくても、今が楽しければいいじゃん?」という声も聞こえてくる。実際に、そう語る同世代も少なくない。けれど、どこか心の一番深いところで、「本当にそれでいいのだろうか」という問いが、ずっと付きまとっている。SNSで見る、誰かの「普通」の暮らしが、実は自分にとっての「普通」ではないのかもしれない、という、見えない壁を感じるのだ。自分はどこか劣っているのではないか、このままではいけないのではないか、という、言葉にできない焦燥感。それが、私たちの心を支配する、SNS格差のもう一つの顔なのかもしれない。

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